ゴールデンウィークにネットフリックスで映画『浅草キッド』を見ました。みなさん見られましたでしょうか。
この映画、原作はビートたけしさんの同名の書籍。1988年に出版されたこの本。実は私、この本、高校生の時に読んでたんです。すっかり忘れてましたが、映画を見て強く、強烈に思い出しました。
物語は1966年、明治大学理工学部機械工学科を早期に中退したタケシさん。バイト暮らしの果てに浅草のフランス座というストリップ劇場の幕間で芸人修行を始めたところから始まります。(※芸人と言っても劇場のエレベーターボーイからなんですが)
その当時は芸人になろうとしたら、誰か師匠に弟子入りして修行を行うことから始めないといけません。タケシさんが師匠に選んだのが、浅草の深見千三郎さん。決してテレビには出ず、“幻の浅草芸人”と呼ばれた人でしたが、当時の芸人の世界では、深見のほかに師匠なしとも言われたという大師匠。
渥美清さん、萩本欽一さん、坂上二郎さん、東八郎さんなど、大物芸能人の師匠としても有名です。
大学を辞めてまで芸人になりたい、というタケシさんに、深見師匠はなかなか弟子入りを認めないのですが、あまりにもひつこいタケシさんに、エレベーターに乗っている短い時間を利用してタップダンスを教えます。かなり難しいステップも努力でできるようになったタケシさん。ようやく弟子入りを認められ、厳しい修行が始まります。
【お話の中で出てきた深見師匠の名セリフ】
・「他はしらねぇけど、俺んとこでやりたきゃ、客に笑われるんじゃねぇぞ。笑わせんだよ」
・「いつでもボケることをやってないやつが、舞台でボケれるか」
・「媚びるんじゃねぇよ。何が面白いかを提案するんだよ」
・「舞台からおりたらいい服着ろ。芸人はかっこよくないといけねぇんだよ」
・「(女性役をやるなら)世界で一番綺麗になってやるって意気込みで化粧しろ」
時には乱暴なお客のヤジが飛びます。そんなときには「黙って聞いてろバカヤロー」というのが深見師匠の口癖。その後のシーンと静まり返る空気感さえも笑いのネタにしてしまう技術で、そのヤジを飛ばしたお客すら笑わせてしまいます。口は江戸弁、普段から会話の語尾に「バカヤロー」「コノヤロー」をよくつける人だったようです。“笑いを作り出す”という仕事に熱心で、長いものに巻かれず、世の中の顔色を伺わない。でも、素顔は気遣いのある非常に優しい人だったとのこと。芸人として、仕事人として、矜持が感じられました。
監督は劇団ひとりさん。メインキャストが大泉洋さん(深見師匠役)と、柳楽優弥さん(タケシさん役)。
特に柳楽優弥さんですが、極力タケシさんに似せようと松村邦彦さんにも協力を得て、8時間を超える稽古を数ヶ月。ものすごくクオリティが上がったものの、どんどん“モノマネ”になっていったとか。
クランクイン直前に監督から待ったがかかります。「似てるんですが・・・なんか違うんです。よし、声色を真似るのはやめて、魂の部分でタケシさんになりきってください」との難しい注文。結果、モノマネではなく、かといってタケシさんじゃないわけでもない。素人の私でもわかります。たしかに“魂の部分でタケシさん”という表現が当てはまる見事な演技だったのではないでしょうか。
劇団ひとり監督とキャストたちの、映画づくりに対する強いこだわりを感じさせられました。
高校生の時に読んでから30年以上経ちますが、私が再び感動させられたのは、登場人物たちの“笑い”や“芸人”に対する心意気。そして、この映画に挑んだ人たちの映画づくりに対するこだわり。
私も住宅を作ってます。同じく“モノづくり”をやっているわけです。やはり何か感じるものが強烈にある作品でした。ぜひおススメします!